昏炎:第二話です。
未成年および現実と妄想と区別がつかない方はこのコンテンツを読まないで下さい・
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季節は秋に差し掛かろうとする頃。
私は暮れ行く街並みを眺めながら紅茶を飲んでいた。
先日の処置の後、あの少女から連絡があったのだ。
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「もういらしてたんですか」
「処置が無いときは、ヒマな人間だからね」
少女は軽く笑って向かいの席に座る。
約束の時間までは20分ほどあったが、互いにそういう性格なのだろう。
私はテーブルのベルを振る。
欧州のアンティークがゆったりと配置された店内は、穏やかさの提供を第一としている。
こうやって呼ばねば給仕も来ないが、ひっそりとした話をするにはなかなかの場所だ。
少女の名前はユカリ。連絡を受けたときに聞いたものだ。
今日は落ち着いた深緑のワンピースとカーディガンという装いで、その仕立ての良い服を違和感無く着こなしていた。
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「先生に聞いて頂きたかったのは、同い年の女の子の事なんです。
私の叔父さんの養女なんですけど、ちょっとしたきっかけで知り合って、
それからとても仲のいい友達なんです」
オーダーが届き、たわいも無い話に一段落ついたところで、彼女は話し始める。
「私、あの子の事を見ていると、どうしても感情が抑えられなくなってしまうんです。
サトコっていう名前なんですけど、優しくて素直な子で、話してるととても楽しくて、
私はそんなあの子が大好きなんだけど・・・それだけじゃなくて」
「気づいたのは、サトコの誕生日の時なんです。
私、お祝いにピアスを送ろうとしたんですよ。ピアッサーと一緒に。
あの子には似合いもしないのに・・」
「自分でもどうしてそんなこと考えたのかわからなくて、叔父さんに相談したんです。
そうしたら、何で私がピアッサーを用意してたのか考えて見なさいって」
「言われて気づいたんです。
私が見たかったのは、サトコがピアスを飾っている姿ではなくて、
サトコの体に傷跡を残したいのではないかって」
私は静かに話を聞き続ける。
「私の反応を見て、叔父は私といくつかの話をしました・・
それから1~2ヶ月経ったでしょうか、私はあのビデオを見せてもらったんです」
それは、私がサトコと呼ばれる少女に行った処置であろう。
少女の中を無理やりこじ開け、そこを蹂躙する行為が撮られていたはずだ。
「私、サトコがあんな酷い目に逢って、それを依頼したのが叔父さんだって聞いても
それを責めることが出来なかったんです。むしろ画面から目を離せなくなって・・
そして興奮していました・・」
「叔父さんには判ってたのかもしれません。私の昏い望みとか、悩みとか。
それで、私、悩んで・・」
彼女の心情を吐露する相手として、事情を知る第三者の私は適任なのかもしれない。
「なるほど。
そして、あの処置を依頼したと」
「ええ、叔父さんを通じてお願いしたんです。
サトコと同じ境遇になってみたかった。
・・・もしかしたら
あれを見て興奮してしまった自分を、私は罰したかったのかもしれません。」
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「先生、私お願いがあるんです」
そういって少女は、小さなケースを2つ取り出す。
ライターほどの大きさのプラスチックケースで、
それには小さな液晶の窓といくつかのスイッチが付いており、
傍目にはポケットベルかシリコンオーディオに見える。
だが、私には見覚えがあった。
これは彼女の胎内にある張り型を動かすためのコントローラーだ。
取り出されたのは緋と藍の2つ。ということは・・
「これを預かって欲しいんです。」
藍色を基調としたデザインのケースを、私は思案しながら受け取った。
「どうして私に?」
「それを、お好きな時に動かして欲しいんです。」
「叔父さんに、サトコの分を借して頂いたんです。
先生に動かしていただければ、そのとき私はこれで・・」
同じく赤を基調としたデザインあるそれを、少女は大事そうに包む。
つまり、私がユカリという少女の中のモノを動かせば
ユカリという少女はサトコという少女の中のモノを動かすのだ。
なるほど、この少女らしいやり方かもしれない。
ならば・・・
「・・・・・わかった。」
しばしの考慮の後、私は了承し、そしておもむろにスイッチを入れる。
「あっ!」
「せ、先生、どうして・・?」
「不意に動かして欲しいというのが、君の望みではないのかい?」
少し振動を強くする。
「・・・ぅ、く、
電動で動作するという点においては一般のものと機能は同じだが、
このバイブレーターは彼女の膣よりも奥底、子宮口を拡げるように挿入されている。
私の問いに返答する余裕もなく、少女は体を屈め、テーブルの端を掴む。
小刻みに体を震えさせながら、何かに耐えるようでもあった。
「そのスイッチは入れないのかな?」
「ん・・あっ、・・・・はい
私の言葉で思い出したように、夢見るように彼女はスイッチを操作した。
わななきながらも、潤んだ瞳でその赤いケースを見つめている。
「参考までに、どんな感じなのか聞かせてもらえないかな」
「やっ、そっ・・
少女は困惑する。だが私は再度促す。
「聞かせてもらえないかな?」
「・・・お なか と いうか・
か らだの まんな か が・・・
ゆさぶら れる よ うな・・」
「気持ちいい?それとも痛い?
「・・ど っち でも・・なく て
ただ とにか く・・くる しい です・・」
震える声で状況を説明してくれる。
なるほど強すぎる刺激は、快感でも痛みでもなく、そういうものなのかもしれない。
「すぐに止めたほうがいいかな?」
「い・・ゃ・・ おまか せ しま す」
やはり気丈な少女だ。
帰ってきた返事が私の期待どおりであったことに喜び、
そして、私は卓上に設置されたオーダーの為のベルを振る。
ちりんちりんという涼しげな音が店内に響く。
「・・!」
少女が目を見開いてこちらを見る。
「ここのミルフィーユは絶品だよ。ぜひ頼んでみるといい。」
「そ んな・・」
「ほら、給仕が来るよ」
テーブルを掴んだ腕はまだ細かく震えていたが、
私が給仕を視界に捕らえて、それを告げると
彼女は両手を膝の上に置いて俯いた姿勢となった。
「お呼びでしょうか?」
丁寧な物腰のウェイターが声を掛ける。
ユカリという少女はそれに対応できずに、わなないているだけだ。
私はウェイターに目で合図をし、注文の相手が少女であることを示す。
しばしの静寂
「あ・・の・・ミル フィーユ・・を・・頂け・ますか」
「かしこまりました」
ウェイターが途切れ途切れの少女の声を理解したとき、
私はこっそりと、バイブレーターの振動を強くする。
「うっ!」
「他に何か御用がございますか?」
「い・・いえ、なに・・・」
懸命に体の奥を揺さぶる振動と戦っている彼女に、最後まで返答する余地は無かった。
うつむき、わななきながら首を振るその仕草に、少しだけ助け舟を出す。
「それに合う紅茶を2杯もらえないかな?」
「かしこまりました。」
ウェイターは一礼して去っていく。
「う、く・・」
少女の顔は赤く染まり、テーブルの上に頬をつけて震えながら、懸命に声を押し殺していた。
きっと早く止めて欲しいと願っているに違いない。
「オーダーが届くまでもう少し時間があるね。」
コントローラーを弄びながら、カップを手に取る。
オーダーが届くまでの間、
私は少し冷めた紅茶と少女の様子を味わうことにした。
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多少落ち着きを取り戻した少女が非難めいた目で私を見つめる。
「先生!」
「ん?」
「非道いです!」
「そうかい?」
「いきなり、急に・・動かすなんて・・」
先ほどの事を思い出したのか、私から目線を逸らせて頬を膨らませる。
たしかに、急にあんな目にあえば、怒りたくなるのも頷ける。
「私も急に君からスイッチを受け取ったときは驚いたよ。
でも、遅いか早いかの問題だろう?」
「・・でも」
「それに、君もスイッチを入れる側だ」
「っ!」
少女は一瞬表情を止める。
「そうですね。私もあの子に同じことを強要しているんだわ・・」
「それに偶然とは言え、都合が良かったんだよ。
実はこのカフェは「夜帳(やや)」が運営に関わっててね、
先ほどの君がどんな粗相をしても、それが表に出ることは無いんだ。」
「えっ」
あっけにとられた顔で私を見ている。そして穏やかな表情を浮かべて
「先生、意地悪ですね。でも本当は優しいのかも・・」
「きっとそれは買いかぶりだ。これは返しておくよ」
私は少女から渡されたコントローラーをテーブルに置く。
だが少女はかぶりを振って、私の目を見つめる。
「それは先ほど言ったとおり、先生が持っていて下さい。
そしてどんな時でも・・
本当に構いませんからスイッチを入れて下さい」
「・・・わかった。」
「それにたぶん、これからも先生に逢ってお話させてもらいたいですから」
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私は困っていた。
少女から渡されたコントローラーに、何時スイッチを入れれば良いか決められなかったのだ。
夜会には調教に長けている者もいて、そんな奴ならノウハウも知っているだろうが、
私は、私の知る「そいつ」と話すのが嫌いだったのだ。
結局ひとしきりの思考の後、自分の意思をトリガーにするのは難しいという結論に達した。
だが、私は彼女の望みを実行できている。
乱数表というのは本当に便利だ。