昏炎と熾火を継ぐ話です。
未成年および現実と妄想と区別がつかない方はこのコンテンツを読まないで下さい。
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灰色の世界。
彩りは失せ、無為な時間が私を削っていく。
サトコを壊して私は大きな欲望を満たし、
そして生きる意味を喪失した。
あの日からどのぐらい経ったのだろうか
先生を悲しませたくないので、食事は採る事が出来るようになった。
でもそれだけ。
先生は私にそれ以上の事を求めない・・・
私も自分から行動は起こさない・・・
夜帳(やや)には何度か足を運んだ。
それは私を震わせなかった。
先生と朝食を過ごし、
先生を送り出してからは庭を眺めて喪失に身を任せる。
そんな日々が続いていた。
++++
「あなた、あまり紅茶の煎れ方が上手くないわね」
「・・・申し訳ございません」
給仕の子に向かってそんな事を言う。
お湯の温度なのか、蒸らしの時間が悪いのか、
残念ながら及第点といえるものではなかった。
「お茶は今度から別の人に煎れてもらって頂戴」
「・・いえ、旦那様から仰せつかった事なので・・・」
少し怯えて消え入りそうな声だったけれど、意外な答えが返ってきた。
一体どういう事なのだろう?
紅茶の味がわからない先生ではない。
この屋敷にもっと上手に紅茶を用意できる人はいる。
この給仕にわざわざ紅茶を準備させた訳は?
屋敷で働く姿は何度か見かけた気がする。
その働きに落ち度があるような覚えはない。
声は小さいが言葉遣いも丁寧だ。
「あなた、お名前は何と言うの?」
「シズキと申します」
「そう、シズキさん。
この家は長いの?」
「ここでお仕事をさせていただいて3ヶ月になります」
「そうなの。
そんな長い間、名前も聞いてないなんて、
私もどうかしてるわね」
消え入りそうな返答と共に、彼女のお下げが左右に揺れる。
私は元の疑問に戻って考えを続けようとしたのだけれど、
シズキと名乗った給仕の眼鏡の奥の瞳が
私に何かを告げようとした様に思えた。
「私に何か言いたいことでもあるのかしら?」
「あの・・・
お嬢様にお願いしたい事があるんです・・」
私は興味というものを思い出したのかもしれない。
「それは何なのかしら?」
「お嬢様に、私を・・・
私を壊して戴きたいんです」
白く積もる心の灰。
今もなお、燻るものは残っているのだろうか。